ヘスペロスとアリシアは研究室に戻ってきた。
研究施設跡から持ってきたのは、旧式のコンピュータといくつかの研究資料。
ヘスペロスは好奇心を抑えられず、早速このコンピュータを起動させる事にした。コンピュータを入手したのは初めてではなく、既に何台か稼働済みだ。AAI以前のコンピュータは、電源や入出力端子が共通規格になっていて、以前で手に入れたディスプレイやキーボードを接続する事が出来る。つまり稼働環境は整っているので、準備は最低限で済む。
ヘスペロスがスイッチを入れると、ファンの回転するような特有な音と共に、モニターに起動メッセージが表示された。
「あっ!字が浮かび上がりました。しかも次々に変化しています。影絵みたいですね!」
普段は慎ましく、発言も控えめなアリシアだが、これには驚いたのだろう。いつもより少し饒舌になっている。
「これはコンピュータからのメッセージを表示する装置だ。こちらからのメッセージはキーボードを使う」
ヘスペロスが適当に入力してみせると、アシリアは不思議そうな表情を浮かべた
「話しかけても伝わらないのですか?」
「そういう訳ではないが、話し言葉には曖昧なところがあるからね」
「そういうものですか……」
アリシアは特に意見を言う訳でもなく、いつもの控えめな態度に戻ってしまったようだ。
ヘスペロスは資料の一番上にあった冊子を手に取った。
表紙には「ディープラーニングと物語のモデル」とある。
資料が遺されていた研究施設跡では、人工知能の研究が行われていたようなので、ディープラーニングとはその手法の一つなのだろう。物語のモデルとあるので、文章を自動生成するための研究かもしれない。
この施設は大戦中に破棄されたらしい。戦争にはあまり役に立ちそうもないので、研究自体が中止されたのだろう。
資料を開くと次のような事が書かれていた。